青葉哲郎のマーケティングブログ

日本の先をゆく?イギリスとアメリカのネットスーパーについて

こんにちは。サイコスの青葉でございます。本日は、成長を続けているオンラインショッピング、ネットスーパーをテーマにブログを書きたいと思います。

セブンアンドアイが「omni7」をオープンし、楽天が注文から30分~1時間程度で配達してくれる「楽びん」というサービスの開始を発表するなど、この市場はにぎわっています。経済産業省の統計によると、EC市場規模(BtoC)は2014年に12兆円を超えていて、さらなる拡大が見込まれています。

そんな拡大傾向にある日本のネットスーパー市場ですが、イギリスやアメリカのネットスーパー市場は、日本より進んでいるといわれています。イオン出身の私としては、小売業界にとても興味があるところ。そこで今回は、日本の先をゆく英米のネットスーパーについて迫ってみたいと思います。

◆イギリスでは、共働き家庭が多いため、早くからネットスーパーが普及

それではまず、イギリスからみてみましょう。ロンドンの小売市場ですが、ここ数年、大きな変化を遂げています。食品市場全体が横ばいから減少に転じようとしている中で、ネットスーパーのみが急成長しているのです。

いまや、イギリスはネット先進国のアメリカを凌ぎ、世界で最もネットスーパーの競争が激しい市場と言われています。ロンドンの街中にいると、大手スーパーの小型トラックをよく目にしますが、共働き家庭が多いイギリスでは、ネットスーパーが早い時期から普及していました。真夏でもさほど気温が上がらないため、生鮮品を管理しやすく、新鮮なものを安定供給しやすいというのがあると言われています。

◆イギリスの大手小売業「テスコ」「セインズベリーズ」「WMモリソン」など大手スーパーが続々参入

現在、「テスコ」「セインズベリーズ」「WMモリソン」といった大手スーパーの多くが、生鮮品の宅配サービスを行っています。イギリスでネットスーパーが開始したのは、最大手「テスコ」がサービスを始めた2000年。その後、一部の大手スーパーは、物流コストの負担が大きく黒字化を見込みにくいことから、参入を見送っていましたが、「やらなければライバルに顧客を奪われる」という危機感から、いまでは大手各社が、軒並みネットスーパー事業を手掛けています。

配送料は各社それぞれですが、60~70ポンド(約1~1万2000円)以上の買い物をすれば送料が無料などと、日本よりも少し価格設定が高めです。配達の日時はもちろん選べ、時間帯は1時間単位で選べます。また、指定した宅配時間が近づくと、ドライバーの名前や車のナンバー、何時頃に到着するかというメッセージを届けてくれるスーパーもあります。

<イギリスの大手スーパー3社>
スーパー名 売上 解説
TESCO

TESCO(テスコ)

約12兆円 テスコはイギリス内で最も多いスーパーマーケット。ロンドン市内にはテスコメトロやテスコエクスプレス(規模の小さいテスコ)などがあり、学校や仕事帰りに食料や日用品を購入するのには非常に便利です。また、テスコはClub card (クラブカード)というポイント制のカードがあり、ポイントが貯まると割引券が自宅に届きます。
http://www.tesco.com
Sainsburys

Sainsbury’s(セインズベリーズ)

約4兆円 セインズベリーズはテスコと同様に店舗が比較的店舗数が多く安めに食料品や日用品を買うことができます。期間限定特別価格によっては同じ商品でもテスコよりも安い場合もあります。
http://www.sainsburys.co.uk
MORRISONS

WM Morrison(WMモリソン)

約3兆円 WMモリソンは超格安のプライベートブランド(PB)商品が、高い質とデザインの良さで人気を誇っています。店舗数は少なめですが、地元では「競合各社より生鮮品の質が良い」と評判も上々。ディスプレイや商品管理にも力を入れています。また、店内にはカフェも併設していて、ショッピング後にのんびりと過ごすのに良い場所です。
https://groceries.morrisons.com/webshop/startWebshop.do?dnr=y

参考リンク:世界の小売業ランキング(デロイト)

<「TESCO」公式サイト>
TESCO
<「Sainsbury’s」公式サイト>
Sainsbury’s
<「WM Morrison」公式サイト>
WM Morrison

◆ネットスーパーの収益性のカギは、「ダークストア」と「クリック&コレクト」

しかし、一般的に食品の利益率は非常に低いうえ、ネットスーパーでは宅配や収集・仕分けのコストが余計にかかるのが現状で、物流コストを削減するための新たな取り組みが活発になってきています。そのひとつが「ダークストア」。ネット販売専用の物流センターです。

イギリスも日本と同様、ネットスーパー初期は店舗で商品を収集・仕分けして近隣地域に宅配する「店舗型」の事業モデルが主流でしたが、市場が立ち上がってくると、店舗だけでは注文を処理できなくなってきます。さらに、通常の売り場での収集作業は非効率なうえに、開店時間などの規制によって24時間体制で運用できないことなどから、ネットに特化するダークストアを設立する動きが加速しています。

その先駆けとしてよく取り上げられる「テスコ」ですが、2013年に6拠点目となるダークストアをロンドン近郊に開設。ネットスーパーに後発で参入した「セインズベリーズ」なども、相次いでダークストアを新設する方針を明らかにしています。

ただし、それだけではネットスーパーの収益性が大きく改善することはないと見る向きもあり、各社が次の一手として力を注いでいるのが、「クリック&コレクト」。製品をオンラインで予約し、店舗での受け取りに加えて、地下鉄の駅や駐車場などに設置したネットスーパー専用のロッカーで、商品を受け取るサービスです。自宅に商品を届けるコストの削減を見込めるうえ、「店舗での受け取り」がサービスに含まれるため、店舗に足を運んでもらう機会を増やせるというメリットをもたらします。

そして消費者側も、荷物がいつ到着するのかを待ったり、準備したりする必要がありません。これだけEC消費が進んだ時代の中で、なんとか自分たちがお金をかけてつくった店舗に買物客を呼び込みたいので、各社は「クリック&コレクト」に顧客を誘導していきたい考えです。消費者が自ら店舗に足を踏み入れてくれる良い仕組みといえますね。そのため、「クリック&コレクト」では最低注文金額を設定せず、単品から注文できるようにしているスーパーもあります。

◆アメリカでは、Amazonが生鮮品の即日配送サービス「Amazon Fresh」に挑戦

それでは、ネット先進国アメリカのネットスーパー事情をみてみましょう。アメリカでは、Amazonがシアトルやカルフォルニア、ニューヨークの一部地域で、生鮮品のオンライン即日配送サービス「Amazon Fresh」を開始しています。

取り扱いアイテム数は、野菜、肉、魚などの生鮮品や、パンなどの加工食品など合わせて50万品目以上。年会費は299ドル(約35,000円)で、配送料は50ドル(約6,000円)以上で無料と若干お高めなので、基本的に富裕層エリアでのサービスが多い印象です。また、地元のレストランなどのテイクアウトも利用可能です。ちなみに、日本でも「Amazon Fresh」の本格参入にむけて検討を進めているようです。

◆Amazonへ対抗するため、Googleも「Google Express」サービスを開始

Amazonに続いて、Googleも「Google Express」という生鮮品配送サービスをスタートしました。大手小売業の「Target」「Walgreen」「Costco」「Whole Foods」や、地元のローカル店の商品も取り扱っています。

配送エリアは順次拡大中で、現在は、Googleの地元であるシリコンバレーやロサンゼルス、ニューヨーク、シカゴといった限られた都市のみの配送。会費は年額95ドル(約11,000円)か、月額10ドル(約1,200円)かを選択できます。もしくは、1注文ごとに4.99ドル(約600円)を支払って即日配送してもらうコースもあります。

3ヶ月の無料トライアル期間も用意されています。Googleのエリック・シュミット会長は、「われわれの競争相手はBingやYahooだと考える人が多いが、検索分野での最大のライバルはAmazonだ。Amazonは一般に検索エンジンだとは思われていないが、何か商品が欲しいときに人々は必ずAmazonで探す」と話していて、Amazonへの挑戦のひとつがこの生鮮品配送サービスといえます。

<「Amazon Fresh」公式サイト>
Amazon FreshAmazon Fresh

<「Google Express」公式サイト>
Google ExpressGoogle Express

◆最短1時間で生鮮品が届く「Instacart」の買い物代行サービス

アメリカのネットスーパーですが、生鮮品を配送できる店舗は少ないと思います。アメリカの広い国土の中、生鮮品の配送をするのは、コストと見合わないのでしょう。

しかし、Amazon出身のCEO、Apoorva Mehta氏は「何でもオンラインで買える時代なのに、なぜ生鮮品だけはスーパーに行かなくてはいけないのか?」という疑問から「Instacart」をスタートします。創業は2012年で、Amazonのような物流インフラを持ちません。代わりに、Shopperと呼ばれる、買い物代行を行う個人と契約していて、現在は1,000人のShopperと契約済み。顧客から注文が入ると、Shopperはすぐスーパーに向かいます。

Shopper専用のアプリには各スーパー内の地図が用意されており、どの棚に注文された商品があるのか、どの通路を通ると最短なのかまで指示してくれます。そして買い物後、Shopperは自分の車やバイクで商品を顧客に届け、配達量に応じた手数料と顧客からのチップを給料として受け取る仕組みです。

なお、購入可能な店舗は「Costco」「Safeway」「Whole Foods」などと、どれもアメリカでは定番のスーパー。なお、「Instacart Plus」という項目を選ぶと、「Instacart」が独自に近隣の店舗から選んだ割安の商品を購入できます。

<購入したい店舗を選ぶ>
Instacart
<「Whole Foods」の選択画面>
Instacart
<「Instacart Plus」の選択画面>
Instacart

参考リンク:https://www.instacart.com/

◆日本では、セブン&アイ・ホールディングスが「オムニチャネル」を拡大中

最後に、日本のネットスーパー市場も少しみてみましょう。セブン&アイ・ホールディングスは、11月1日、新しい通販サイト「omni7」をオープンします。「omni7」は、これまで別々に提供してきたセブン&アイグループの通販サイトを、横断して利用できるようにし、ネットとリアルを融合させることで、オムニチャネルを推進する新たな通販サイトです。

約180万品目を揃える予定で、新たなサービスとしては、「omni7」で購入した商品をセブンイレブン店舗で返品・返金できるサービスや、注文したその日に店舗で受け取れる「お急ぎ受取りサービス」を関東の約7,000店で提供します。リアル店舗を活用したサービスを充実させる狙いです。

<「omni7」公式サイト>
omni7

参考リンク:http://www.omni7.jp/top/

◆まとめ

これまで、店舗、通販、インターネットなど複数のチャネルを、ターゲット層に応じて使い分ける「マルチチャネル」という概念が一般的で、「若年層の共働き夫婦向けにはインターネット通販」「高齢者向けには店頭販売」というように分けて考えられていました。しかし最近では、多くの大手小売店が、全国の店舗網を活用したネットサービスを提供することによって、ネットユーザーを強みであるリアル店舗に送客しようと試みています。

こうしたオンラインとリアルの融合によって、買い物の形も変化していき、ますます便利になっていくことでしょう。元小売業出身の私としては、うれしいような、ちょっと寂しいような、複雑な気持ちもありますが、ショッピングの新たなワクワクが発見されることを信じたいと思います。

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