前回、ビル&メリンダ・ゲイツ財団の主な活動のうち「国際開発プログラム」について紹介した。今回は、財団の資金の大部分が注がれている「グローバルヘルスプログラム」を紹介したい。
2、グローバルヘルスプログラム
10年以上前、ゲイツ夫妻は「貧しい国々では、毎年何百万人という子どもたちが、米国では死の恐れがない病気で亡くなっている」という主題の記事を新聞で読んだ。その1つ「ロタウイルス」の存在が夫妻の目にとまった。毎年50万人の子どもたちがこのロタウイルスにより亡くなっていると書いてあったのだ。夫妻はこのウイルスの名を聞いたことがなかった。「最初は誤植だと思ったくらいだ。飛行機事故で人々が亡くなると新聞の一面に載るのに」と、ビル・ゲイツ氏は米国の有名ジャーナリスト、ビル・モイヤーズに語っている。
写真:ビル&メリンダ・ゲイツ財団ビジターセンター館内にて(サイコス撮影)
ロタウイルスにかかると下痢の症状が現れる。先進国の子どもがロタウイルス性の下痢にかかった場合、すぐに医者に薬をもらえるのですぐに治るが、発展途上国の子どもはこの下痢で亡くなってしまうのだ。この事実を認識したことからゲイツ夫妻のグローバルヘルスプログラムは始まった。
グローバルヘルスプログラムでは、途上国における主要な疾病に対して科学技術の進歩を活用した革新的な支援を実施することを目指している。ゲイツが2012年1月に公表した年次書簡によると、GAVIアライアンス (ワクチンと予防接種のための世界同盟/The Global Alliance for Vaccines and Immunizationより改称)は、子どもの予防接種プログラムの拡大を通じて、世界の子どもの命を救い、人々の健康を守ることをミッションとしている。GAVIは、ビル&メリンダ・ゲイツ財団を中心とした支援のおかげで、2011年夏に$4.3billion(43億ドル)の寄付を取り付けたという。この資金によって、2015年までに19万の下痢性疾患による死と48万の肺臓死を防ぐことができるそうだ。
ワクチン~ゲイツワクチンイノベーション賞
ビル&メリンダ・ゲイツ財団の活動のうち、一番よく知られているのがワクチンに関する活動だ。「2025年までに肺炎球菌性肺炎、ロタウイルスの予防接種を世界中の子どもたちの90%に与えます」ビル&メリンダ・ゲイツ財団のビジターセンターで配られているパンフレットにも記載され、公約となっている。
世界人口の約80%は、幼児期に必要な最低限のワクチンを受けることができている。言い換えると、世界中の子どもの5人に1人はワクチンを受けていないということだ。この状況を変えるため、ビル&メリンダ・ゲイツ財団は今年、「ゲイツワクチンイノベーション賞」を創設した。第1回目に受賞したのは、バングラデシュの医師であるAsm Amjad Hossain氏だ。
2009年にHossain氏が受け持った2地区の予防接種率は60%、67%だった。彼はまず、妊娠した女性の出産予定日を元に、予防接種の年間スケジュールを作成・配付した。さらに、子どもの予防接種カードに予防接種を施す人の電話番号を記入し、小さな子を持つ母親たちがヘルスワーカーと連絡を取れるようにしたという。この革新的なアイデアにより、2地区の予防接種率は、たった1年余りで79%、86%にまで上昇した。ビル&メリンダ・ゲイツ財団が投資の基準にしているのは、このような革新的なアイデアだ。
メリンダ・ゲイツ(左)と第1回ゲイツワクチンイノベーション賞受賞者のAsm Amjad Hossain氏(右)
http://www.gatesfoundation.org/annual-letter/2012/Pages/home-en.aspx
インドでポリオが絶滅?
2012年1月13日、インドが史上初の1年間ポリオ無発生を祝った。ゲイツはインド政府を称賛すると同時に、今後の資金確保の難しさを訴えた。このポリオ絶滅キャンペーンに必要な経費は年$1billionもかかる。昨年は、米国、英国、日本、オーストラリア、カナダ、ノルウェー、サウジアラビア、アラブ首長国連邦の皇太子、国際ロータリーが実質的な資金の貢献をした。2012年は、ナイジェリア、アフガニスタン、パキスタン、チャド、コンゴ民主共和国でのポリオワクチンキャンペーンにフォーカスする予定だそうだ。
総務省統計局発行の「世界の統計2012」によると、2050年の世界人口は93億人に達すると予測されている。地域別に見ると、ヨーロッパでは2010年から2050年にかけて人口減少に転じるが、アフリカでは10億人から22億人に倍増するという。人口増加率が高い国として、世界で最も貧しい国のひとつであるナイジェリアは、2011年の1億6,200万人から2050年に3億9,000万人まで増えるそうだ。ちなみに日本の人口は、2050年に9,700万人と、現在より3,000万人減少してしまう見込みだ。
なお、過去50年で5歳以下の子どもの死亡率は半減した。ワクチン、マラリアの治療薬、下痢や肺炎の治療を行き届かせることにより2025年までにさらに半減させることが可能だという。
次回は、ビル&メリンダ・ゲイツ財団の活動としてはあまり知られていない「米国プログラム」についてご紹介する。
(この記事は、2012年に執筆したものを、加筆修正したものです)