サイコスの青葉でございます。
前回・前々回と、「ラグジュアリーホテル」「コト消費ホテル」の開業ラッシュについて考察してきましたが、今回は最終回、「格安ホテル」について取り上げたいと思います。
ラグジュアリーホテルや、コト消費の充実したホテルの開業が相次ぐ一方で、やはりその母数を稼いでいるのが「格安ホテル」です。しかし、価格だけで選ばれることが少なくなってきた昨今、格安ホテルは価格のみならず様々な工夫を打ち出して、より安く、よりユニークで、より魅力的な「格安ホテル」を提供する努力を怠りません。
それでは早速、そんな魅力的なサービスを提供する「格安ホテル」を取り上げていきたいと思います。
◆世界の格安ホテル市場で大急進。インド「オヨホテル」が日本進出
創業から6年、インド発のユニコーン企業として知られる格安ホテル運営会社「OYO(オヨ)Hotels & Homes」。いまや全世界でのホテル客室数は110万室にのぼり、客室ベースでは世界第2位のホテルチェーンです。
日本では、2019年4月の参入から半年ほどで、すでに150軒以上が開業しており、西日暮里駅から徒歩数分の「オヨ・ホテル・トウキョウ・トリップ」は、成田空港へのアクセスも良いため、アジアを中心に外国人観光客でにぎわっています。
オヨホテルは、新たにホテルを建設するのではなく、既存のホテルをフランチャイズにして経営ノウハウや予約管理などを提供するビジネスモデルで成長してきました。ホテル業界でフランチャイズ方式を採用するのは珍しいケースではなく、日本ではアパホテルやホテルサンルート、外資系ではインターコンチネンタルがそれに当たり、インターコンチネンタルは管理する4000超のホテルの内、自社で管理するのはたった16に過ぎません。
また、オヨホテルが最も優れていると言えるのが、人工知能を使って価格やオペレーションを最適化することです。オヨホテルとフランチャイズ契約したホテルは、専用のアプリが提供され、部屋予約・清掃・物品・食品などの管理が一括で行えるようになります。ホテルの運営に関する情報は、すべてデータとして蓄積され、分析の対象となるため、従来10~11か月かかっていたフランチャイズ契約も、データ分析により、約10日間で締結できるようになったのだそう。
オヨホテルは、日本でのホテル事業を急拡大することを発表しており、2020年3月までに国内最大級となる7万5千室のホテルチェーンを目指します。ちなみに現在、国内で最も室数が多いアパホテルを運営するアパグループは7万室前後で、東横インが約6万6千室。いきなりナンバーワンに躍りでる計画です。
オヨの創業者Ritesh Agarwal(リテシュ・アガルワル)氏は、「より良い住環境を求める旅行者や生活者にとって、需要と供給に大きな隔たりがある」と指摘しています。そして、「立地・快適さ・価格に妥協しないよう、技術の力を使って、この社会問題の解決を目指し、格安ホテルからマンション、リゾートまで、あらゆる不動産物件の標準化されたサービス提供を目指す」というビジョンを示しています。今後の日本での展開がとても楽しみです。
◆労働者の街「山谷」が、外国人に人気の格安ホテル街へ変貌
ここ10年ほどで変貌を遂げ、バックパッカーや長期滞在の外国人観光客から熱い視線を集めているのが、かつては労働者向けの簡易宿泊街として知られた東京の下町「山谷(さんや)」です。山谷という地名自体はすでになくなり、台東区清川・日本堤・東浅草・南千住という地名に変わっていますが、この地域を山谷という呼び方は残っているのだそう。
山谷が外国人観光客の宿泊街として魅力的な理由は、もちろん料金が安く、諸外国の安宿街に比べて治安が良いこともありますが、JRや地下鉄、つくばエクスプレスなどが乗り入れ、交通の便が良いこともあるでしょう。上野へは南千住駅から東京メトロで約5分、秋葉原へも東京メトロで10分で行くことができ、南千住駅の近くには大型商業施設もあるため、長期滞在のための生活必需品の購入にも便利です。
この10年で大きな変貌を遂げてきた山谷。ホテルの看板には、日本語以外の言語や外国人を意識したであろう和風のディスプレイが掲げられ、街ゆく人には外国人や若い人たちの姿が多く見受けられます。
その変貌のきっかけとなったのが、2009年に誕生した「KANGAROO HOTEL」です。コンクリートの打ちっ放しにフローリングというオシャレな建築、しかし客室の多くは山谷のスタンダードである3畳ほどのコンパクトな部屋というホテルで、2011年にはグッドデザイン賞を受賞しており、価格はシングルで1泊3,600円から。
そのほかの山谷のホテルでも、京町家風や和モダンな客室、茶道や折り紙などの日本文化体験や、スタッフ全員が英語を話せるなど、各ホテルでユニークな個性を打ち出しています。また、ディープな東京が知れるという意味でも、山谷には楽しめる見所が満載かもしれません。山谷に従来からあるホテルは、オーナーが高齢化、建物が老朽化、という例も多くあるので、それらをうまく改装すればさらなるユニークなホテルが出てくるかもしれませんね。
◆外国人の就労も担う、格安ホテル「YOLO BASE(ヨロベース)」
以前、テレビ東京「WBS」でも取り上げられていた格安ホテル「ヨロベース」。多くの外国人観光客が訪れホテル不足が叫ばれている大阪で開業し、日本で初めてとなる就労インバウンドトレーニング施設兼デザイナーズホテルとして注目を得ています。メインターゲットは外国人観光客で、値段はシングルで1泊3,500円から。
ヨロベースは南海電鉄が開業し、外国人を雇いたい企業と働きたい外国人とをマッチングするサイトを手掛けるベンチャー企業「YOLO JAPAN(ヨロジャパン)」が運営しています。
訪日外国人だけでなく、外国人労働者も増えていることに注目したヨロジャパンは、外国人を従業員として雇っており、ヨロベースではその数が98%を占めています。特定技能資格取得を含めた日本企業で働く上で求められる業務スキルの習得と、知識・語学の習熟、実務経験の増進を図っていて、これまで外国人を雇いたくても採用に結びつかなかったミスマッチを、ここでトレーニングすることで解消するのが狙いだそう。また、起業したい外国人向けにコワーキングスペースも設置しています。
外観や内装もオシャレなヨロベースですが、ホテルのデザインは日本の注目アーティスト100人が手掛けたのだとか。また、レストランでは「世界を旅するキッチン」をコンセプトに、世界各国の料理が味わえます。
◆まとめ
開業ラッシュが続く日本のホテル業界。しかし、消費者がオンラインでホテルを比較するのが当り前になった昨今、ホテルが選ばれ、収益を確保するには価格比較で終わらない独自の付加価値が不可欠です。
現在の日本のホテル業界には、まだまだ「多様性」が少ないと感じます。それは、日本の観光産業が、いわゆる1億総中流の誰もが楽しめる「日本人のもの」であった時代が長すぎた代償かもしれません。しかし、外国人観光客も対象とした「産業」として発展させていく場合、このような画一的な価値観は大きな足かせになります。より多くの多様性をもたせることが、今後の日本のホテル・観光産業を盛り上げるキーワードになるのではないでしょうか。
一方で、2020年の東京五輪に向けて、ホテルの建設ラッシュがピークを迎えており、逆に供給過多を指摘する声も上がっています。五輪期間の需要を見込んでホテルを建設しても、終わった後に閑古鳥が鳴くのは、国内外の過去のケースを見れば明らかです。果たしてどこが勝ち組となり、将来的に生き残っていくのでしょうか。2020年以降の真の正念場に向けて、その実力と真価が試されようとしているのかもしれません。